医療法人化 Q&A

過去のドクターセミナーにて会員様より寄せられたご質問を解説いたします。
医療法人化を検討される際にお役立てください。

Q 01
診療所を法人化するメリットとデメリットはなんですか?

主なメリットはつぎのとおりです。

  • 1 院長を中心に同族グループ内で税の軽減効果があります。その理由はつぎのとおりです。
    (1)法人税(比例税率)と所得税(累進税率)の税率差が生じる。
    (2)院長親族が理事就任、適正範囲で役員給与の支給が可能。
    (3)役員給与に給与所得控除の適用がある(実質非課税枠)。
  • 2 役員(理事長・理事など)に対し役員退職金の支給をすることができます。それにより、老後の生活保障を図ることが可能となります。
  • 3 医療法人契約の掛け捨て生命保険料などが損金(経費)算入できます。したがって、医療法人化によりリスクマネジメントへの対処がし易くなります。
  • 4 医業を母体とした経営の多角化・大規模化が図れます。
  • 5 医業と家計の分離が可能となる。
  • 6 医療法人を活用して相続税対策ができる。
  • 7 後継者への事業承継がしやすい。

主なデメリットはつぎのとおりです。

  • 1 所得分散がされるため院長先生個人の可処分所得は減少します。
  • 2 軽減された税金が法人の内部に留保されます。したがって、この内部留保を上手く使うスキームが必要となります。
  • 3 役員・従業員ともに厚生年金に強制加入となります。
  • 4 交際費に損金算入限度額が設けられています。
  • 5 経営情報の開示が必要でガバナンスが強化されました。
  • 6 設立の手間(設立認可申請手続き)や運営上の手間(社員総会や理事会の開催、毎期毎期の登記や決算届出など)が増えます。
Q 02
法人化するべき医院の損益分岐点や、法人化に適したタイミングが知りたいです。

税金面で医療法人化が有利となる大まかな目安は課税所得金額が2,000万円を超える場合と考えられます。理由は、個人開業の医師・歯科医師の先生に適用される超過累進税率は、課税所得金額が1,800万円~4,000万円までの部分については50%、4,000万円超の部分は55%が適用されます。これに対し、医療法人に適用される比例税率は平均すると概ね30%弱(社会保険診療中心の医療機関の場合)となるためです。

課税所得金額が2,000万円を超える場合、役員給与の金額設定や厚生年金への加入による社会保険料の増加など細かな内容を加味してシミュレーションを行い医療法人化の是非を判定することになります。結果として、医療法人化が有利で認可申請するとなれば、都道府県の設立受付スケジュールを調べて準備することになります。

Q 03
法人化する際にはどんな費用がかかるのでしょうか。金額の目安も知りたいです。

法人化する際の費用には、設立認可申請を行政書士等に依頼した場合の支払手数料や保健所への診療所開設許可申請手数料、登記簿謄本等の取得費用、認可後の司法書士への登記手続き依頼手数料などがあります。合計で概ね80万円~100万円の費用となる場合が一般的です。なお、設立に要した費用は医療法人の税金計算で経費計上できます。

Q 04
法人化することでどの程度の節税効果があるのでしょうか。

大まかなシミュレーション結果は以下のとおりです。

  • 1 個人事業で医療機関を経営していた時代
    〇事業所得金額:5,200万円
    〇青色事業専従者給与:600万円
    〇院長の所得控除:160万円、専従者の所得控除:100万円
  •      ↓
  • 2 医療法人化した後の状況
    〇医療法人の所得金額:2,500万円
    〇理事長報酬:2,400万円
    〇常務理事報酬:960万円

あくまでも概算ですが、上記の場合で概ね税金は900万円~1,000万円少なくなります。
(注:前提条件の相違により節税メリットは異なります。詳細なシミュレーションは税理士にご相談ください。)

Q 05
「持分なし医療法人」へ移行した場合、今までと何が違うのか、詳しい実態が知りたいです。

「持分あり」医療法人の「持分」とは医療法に「定款の定めるところにより、出資額に応じた払戻し又は残余財産の分配を受ける権利」と規定されています。具体的には持分は「社員の退社時の持分払い戻し請求権」と「医療法人解散時の残余財産分配請求権」の2つを指します。従って、持分を持つとはこれらの財産権を所有していることを指します。これに対し、「持分」なし医療法人の場合は、社員等が財産権を有することはできず、医療法人が解散する際の残余財産は国等に帰属することとされています。両者の違いはこれら財産権を持てるか否かだけで、それ以外の取り扱いに差異はありません。

Q 06
法人化したことによる事務作業の負担増が心配です。具体的にどんな仕事が増えるでしょうか。

日常業務では厚生年金に加入した後の諸手続きが必要となります。また、税金の申告などとともに、社員総会・理事会の開催、事業報告書等の都道府県への届出、純資産の登記、2年に一度の役員(理事3人以上、監事1人以上)変更手続きなどを行うことになります。

Q 07
個人ではできていたことが、法人化することでできなくなるようなことはありますか?

個人時代は、事業資金も院長先生個人に帰属するお金ですので、資金繰りに支障を来さなければ自由に使うことができます。これに対し、医療法人化後の医療法人の資金は法人のものであるため、たとえ資金繰りに支障を来さない場合でも、これを個人的な支出に流用することはできません。

Q 08
理事・監事を頼める人がなかなかいません。どんな方にお願いするケースが多いのでしょうか。

医療法により、医療法人には理事3人以上、監事1人以上が必要です。理事には未成年者ではない親族が就任する場合が多いと思います。監事は理事の親族や取引関係者等からは選任できないため、例えば、理事長の友人の医師や歯科医師、地域の有識者などに就任を依頼する場合があります。

Q 09
法人化すると税務調査が入る可能性が高くなると聞きますが本当ですか?

医療法人だから税務調査が入る可能性が高くなるということはありません。

Q 10
法人化すると再度新規指導の対象となるのでしょうか?

指導対象となる場合とならない場合があります。

Q 11
個人で大きな買物をする場合に、法人からお金を借りることは可能なのでしょうか?

できません。

Q 12
医療法人化したのち、収益を考え個人に戻したほうが良いような状況は考えられますか?

社会保険診療報酬に係る収入が年間5千万円以下となった場合で概算経費特例が有利になる場合などは、税金面からは個人に戻したほうが有利となります。

Q 13
事業承継ができなかった場合の損失やリスクが知りたいです。

損失面では、医療用機器の廃棄やカルテの法的期間の保存などに費用が生じることが考えられます。リスクとしては地域医療の質が落ちることなどが考えられます。

Q 14
医療法人を解散する際に必要な手続きや費用について教えてください。

医療法人が解散する場合は、清算人が法人を代表して清算手続きをとります。清算人の職務は、現務の結了、債券の取立て及び債務の弁済、残余財産の引渡しとされています。清算人は就任後2月以内に3回以上債権者に対し一定期間内、債券の申出公告を官報に掲載しなければなりません。また、判明している債権者には、個別に債権の申出催告をすることになります。また、解散する際には、清算結了に至るまでの税務申告を必要となります。

Q 15
医療法人を解散すると資産を国や地方公共団体にとられてしまうと聞きました。財産を失ってしまうのではないか心配です。

「持分あり」医療法人の場合には、持分を通じて残余財産に対する権利を有していますから財産を失うことはありません。これに対し、「持分なし」医療法人は、解散時の残余財産は国等に帰属するため、個人的な財産を失う可能性はあります。そのため、解散する際には役員退職給与の金額の見込み算定などを事前に行い、精緻なプランニングと実行が求められることになります。